本書の1,2を通読(といっても関心のないところはとばし読み)した。1の大半は、フィールド調査にでかけるまでの話で、調査といっても大変な作業であり、その準備には金もスタッフも現地雇用スタッフも必要だし、いろいろな部門との調整も必要になる。また事前にそれまでその地域に入った人たちの資料をきちんと調べておくことが大切である、ということも分かる。これらの点が、いわゆる単なる紀行文とは違うことろだろう。
各部族について書いてある1の終わりから2にかけての部分では、価値相対主義の考え方にもとづいた、原住民の観察記録が書かれている。ただ著者は常に考えてしまうタイプの人間であり、まあ当然ながら文化人類学者としては必須の資質ともいえるのだが、そうした考え方が面白い。
そして現地に入って見たもの、経験したものについて、それなりに「構造」に類するものを整理している。半族に関する記述、ボロロ族の社会構造に関する図式的表現、ナンビクワラ族に見られる一夫多妻制と同性愛の許容に対比してトゥピ・カワイブ族の一夫多妻制と一妻多夫制によるバランスの取り方についての技術などには、図式的構造化、概念図式の重要性が見て取れる。
彼の構造主義は、こうした図的概念表現をしたり、その中における変換構造を記述したりすることが出発点になっており、ここではむしろ構造主義というよりは、構造表現アプローチといった方がいいようにも思える。これらのアプローチは、社会学や心理学などでも使われているものであり、取り立てて新規であるとは思えない。実に素朴な実証主義的アプローチといえ、その点では共感できる部分が多い。