Lewis CarrollのAlice's Adventure in Wonderlandを元ネタにしているとはいえ、これは完全にJan Svankmajerの世界である。Janさんは、まあ自分の好きなグロテスクなものどもを組合せ、ストップモーションでカタコトと人形やらモノやらを動かしている。想像するに、Janさん(僕との間に距離を感じるので「さん」づけにしている)は、ともかくそうしたアニメーションを作りたかったのだろう。だけど筋なしで作ると退屈なものになるだろうと考えて、アリスの筋書きを借りることにしたのではないか。Lewisの作品の忠実な再現などという考えは、おそらく毛頭無かったことだろう。さきほど「さん」づけにした理由を書いたものの、実はこのグロテスク感は僕自身に実に身近な感覚なのだ。それを嫌悪する気持ちがあって、それでもそこから離れられない気持ちがあって、結局Janさんの作品はDVDで手にはいる限りを見てしまった。これがその意味での最後になる。ただし、値段が安いのでamazon.comの方で英語版を購入した。
さて、トランプや人形の首をはさみでちょん切るなんて残酷さは、ここでは残酷さではなく、モノをいじくる操作のひとつに過ぎない。まあいろんなガラクタが好きな人なんだ。良く集めたものだと思う。きっと大きな家に住んでいた人なのだろう。そうであれば僕だってこれくらい集めていたに違いない。そんな風に、嫌悪すべき親近感を感じさせる作品である。
アリス役のKristýna Kohoutováがいまひとつ可愛くないのが残念。アリスはALice Liddellのような大人を魅惑する美少女でなければならないからだ。
作品的には、アリスの口によって「だれそれが話ました/命令しました/などなど」と登場「人物」の発話を説明しているところが五月蠅い。どうせ夢の中の世界なんだから、意識世界のアリスが登場する必要はない。ただ、最後に目覚めたのが大人の女の人の脇にいるアリスではなく、まだ夢の世界の中であるあたり、僕だったら、ああ、いつになったら戻れるんだろうと嘆息してしまうところだが。ともかくアリスがこんな珍奇な世界に恐怖を感じず、どんどん進んでゆくところ、ひとつのロードムービーになっているともいえるだろう。これは元々のAliceがそうだったといえる。いろいろなモノたちとの出会いを経験し、だけど、だからといってそれを人生の血肉にするなんて教訓は一切なし。そのあたりは元々Aliceのコンセプトを継承しているともいえる。
ところで、併載されている小品のDarkness Light Darknessはなかなか良い。粘土の腕が目玉や耳をつけ、頭をつけ、脚をつけ、チンチンをつけ、そして胴体をつけて、狭い部屋の中で押しつぶされそうな人体になる。その途中で本物らしき脳みそがでてきて、それを粘土の頭のなかに詰め込んだりと、まあグロといえばグロだけど、小気味良いグロテスクだ。この程度の小品がJanには合っているように思う。長編はちとうんざりして眠くなるのだ。