もともとCervantesは、Don QuixoteとなるAlonso Quixano老人を主人公にした物語を書いた。Cervantes自身、数奇な生涯を送ったので、それとAlonsoを組み合わせたくなったのだと思うけど、そのシナリオ構成の是非については僕は否定的だ。特に最初、Cervantesが投獄され、そこで囚人達とAlonsoの物語を演じはじめるあたりがとても不可解。劇だから許される? そうはいっても事前に話を聞いていなかった囚人たち、シナリオさえ知らないはずの彼らがそれぞれの役回りを協力的に演じてしまうというあたりには相当な無理がある。Alonsoを含めた3人の主人公が劇中でも現実でも、いわばワープしながら行き来をするなんて、まあ面白い着想かもしれないけど、あまり受け付けない。もうひとつ、有名なImpossible Dreamという歌。結局Alonsoは妄想型の統合失調症であり、古い時代の因習を体現したシンボルとして描かれているにしても、それはコケにすべきものであり、それを英雄的にたたえる歌で送るのはおかしい。だから聖書に次ぐ世界的ベストセラーであったという原作は読んでいない(し、読む気も起きない)のだが、そこに元々あったであろう喜劇的な側面が台無しになっている、と思う。演劇関係者というのは感動的に盛り上げればいい、許される、それが期待されている、と思い込みすぎているのではないか。もちろん素直に感動している人たちを貶すつもりはない。ただ、僕にとってはどうにも許し難いCervantesに対する冒涜のような気がするのだ。(ミュージカルも見ていないけど、これがミュージカルをかなり素直になぞった映画化であるという前提でのコメントです)。