こういう規定を作るのは、まあそれなりに結構なことで、ご苦労様だとは思うけど、被験者という言葉を研究対象者といいかえるなんて言葉狩り。いや、それ以上に問題なのは、心理学会という閉じた世界のなかで倫理を云々していても、外の世界では沢山の人が殺されている現実。その現実のなかにおける心理学の世界のありようをどう捉えるか。まずは自分達の足下を固めることから、というのが言い訳のロジックだろうけど、どこかの国の軍隊では心理学者が積極的に関わって、占領地域での宥和政策のあり方なんかにアドバイスしている現実。もちろんそういう「研究」は学会としては受容されないだろうけど、実学として現実には存在している。それを見ぬ振りして、直近に見えているものだけをコントロールしても自己満足の世界だ。
心理学の目標というのがそもそも明確ではないところにも問題はある。どのような生き方が満足できるものかを明示せず、問題指摘に終わっている。つまりnon-negativeな方向は示しつつも、positiveな姿を明示していない。さらに一般原則を抽象的には表現していても、それが現実場面に適用しようとするとどうしたらいいのか分からなくなる。そんな状態にこそ矛先を向けるべき。
心理学の倫理の方向が定まったなら、応用場面で実学と称して不適切な活動をしている人たちを指摘し、名前を公表し、その活動を批判することくらいやっていいだろう。侃々諤々となることは目に見えているが、そのくらい活性化しなければいけないんじゃないの。
きちんとした体系整備も結構だけれど、現実における不合理を追求する姿勢を忘れてはいけない。